知らない時間
特にネタバレは無い……と思いますが、付き合っている前提です。
全く誕生日とは関係の無いお話で、カンヤとジュンさんが出てきます。
「お待たせー、こっちから誘ったのに待たせて悪かったね。」
そう言いながらレストランの個室に入って来たのは、ジュンさんだ。後ろから少し遅れてハクも入ってくる。
「いえ、大して待ってないですので全然大丈夫です。無事に来られて良かったです。」
手を振りながらジュンさんにそう返事をする。本当に、ジュンさんとハクの仕事を考えれば少し遅れた位で来られるのなら全く問題は無いと思う。
ジュンさんがカンヤの隣に、ハクが私の隣に座るのを待ってカンヤがジュンさんに話しかける。
「今日は無理言って俺まで参加させてもらってすいません。俺、前から、ジュンさんとゆっくりお話ししたかったんですよ。」
元々は、ジュンさんから金曜の夜に3人でご飯でもと誘われていたのだが、その話を聞いたカンヤが、自分も行きたい3人も4人も変わらないから混ぜろと騒ぎ出したのだ。どうも仕事中や高校を去った後のハクの様子をもっと知りたいらしい。「社長だって知りたいでしょ。俺がジュンさんから聞き出すんで!」と言われてしまい、それは私も聞きたいなと思ってしまった。
ハクの仕事の時の様子は守秘義務から聞けることなんて殆どないのに加えて、ハクはあまり多くは語らない方だから私も仕事中のハクの様子を聞いた事はあまりない。任務明けで戻ってきた時の様子から、きっと今回の任務も難しい任務だったんだろうな……という事を推し量る事は出来ても、どう大変だったのかを聞く事は出来ない。でも、ジュンさんなら、話していい範囲でなら話してくれそうな気がしなくもないし、カンヤなら聞き出してくれそうな気もする。普段はそもそも話せない話なのだから聞けなくて良いと思ってはいるけれど、聞く機会があっても聞かないのか?と言われたら、好きな人の話で聞きたいくない話なんて無いに決まっているのだった。
「それで、その時のハクがさーもうめちゃくちゃ怖いったら……」
「あー、ハクさん怒ると本当に怖いですよね……でもそれがまたかっこいいんすよ。」
「あ、そういえばハク、その時助けたアイツ結婚するらしいけど、聞いたか?」
「あぁ、聞いたよ。」
ハクのエピソード交換会の様相を呈している二人の会話に、私はひたすら相槌を打ちつつたまに口を挟んでいたのだけど、ハクはもうずっと口を開いておらず、諦めた様子で私たちを眺めていた。しかし、すぐに返事が返ってきたという事は話自体はちゃんと聞いていたらしい。
「ほんと、目出度いよな。それでお二人さんはいつ結婚するの?」
え、いま何を聞かれて……?
「いや、まだ……」
ついそんな台詞を口走ってしまい、慌てて隣のハクを伺うと、丁度飲み物に口を付けたところだったようでハクはハクでむせていた。ハクに大丈夫?と声をかけてその背中をさする。
「まだだそうですよ、ジュンさん」
「だね、まだってことはこの後予定があるって事だね。」
自分の台詞へのつっこみに横を向いた顔を正面に戻せなくなる。しかし、ハクの顔を見るのも恥ずかしくて視線と手を下に落とすと、その手にハクの手が重ねられるのが目に入った。
「俺、ハクさんと社長の結婚式で余興したり、二次会の幹事やったりするの楽しみにしてるんですよね。」
「お、いいね。じゃぁ新婦側の取りまとめよろしく。新郎側は俺が引き受けよう。」
「おい、お前らいい加減にしろ。」
握られた手の力が強くなるのを感じる。
「お、さっきまで何の話題でも放っておいたのに、この話題は止めるんだ。」
ハーっというハクの大きな溜息が聞こえた所で、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
個室予約の終了時間を告げる店員さんは、正直天の助けだと思った。
「それじゃぁ今日はありがと。またね。」
「こちらこそ、今日は凄く楽しかったです。是非また。」
店先で連絡先を交換する二人を眺めていると、帰るぞという声が隣からかかった。
「うん、じゃぁ、私たちはこれで失礼します。今日はありがとうございました。」
そう、ジュンさんとカンヤに声をかける。
「こちらこそ。あ、ハクも明日非番になったから。楽しい休日を。」
「ハクさん、お疲れさまでした。社長もまた来週。」
そう言って手を振る二人と店の前で別れて、駐輪場にとめてあるクロの所まで向かう。
「明日、お休みなの?」
自分用のヘルメットを受け取りながらハクにそう尋ねる。
「あぁ、急にな。だから行先は俺の家でもいいか?」
頷いてハクに捕まると、クロは聞きなれた軽快な音を立てて夜道を滑り出した。
🍃
「今日は随分楽しそうだったな。」
ハクの家の入るとすぐに、あとから入って来たハクに後ろから抱きしめられてしまい、すぐそばからそんな声が聞こえた。
「気心の知れたメンバーだし、今まで知らなかったハクの話が沢山聞けたしね。でも……ハクはつまらなかったよね?」
そう答えると、わたしの頭上にハクのあごが載せられる。
「おまえが楽しかったならそれでいい。」
「職場での話だけじゃなくて、高校時代の話も私の知らない話がいっぱいだったし、二人は私の知らないハクを本当に沢山知ってるよね……」
仕方のない事だけど少し寂しく思いながら、二人の話を聞きながらずっと思っていたことをつい口にしてしまうったら、その言葉と同時に、体が傾いた。
急に抱えあげられた私はあっという間に寝室のベッドに横たえられていて、ハクが私を覗き込んでいた。
「ど、どうしたの、ハク?わたし達ばかり話してたから怒ってる?」
「いや、だから、それはおまえが楽しかったなら、それでいい。」
でないなら、急にどうしたのだろうか。
「あいつらの知っている事は、他にも知っているやつがいる事ばかりだ。だけど、おまえと居る時の俺を知っているのはおまえだけだ。」
確かにその通りだ……お互い仕事もあるから、一緒に居られる時間は今は決して長くはないけれど。
「それに、おまえしか知らない俺の時間はこれからずっと増え続ける。」
ふと、ジュンさんから聞かれた質問が頭をよぎる。
そうなったらきっと、わたししか知らない時間もいまよりもっと増えるのだろうか。
一緒に過ごせなかった時間や、過ごせない時間を残念に思うよりも、これから二人で過ごす時間を大切にしよう。
そう思いながらハクを見つめ返すと、ハクが微笑むのが目に入った。
この綺麗な琥珀色の瞳にわたしだけが映っているのをずっと見ていたいと思ったけれど、すぐに目を閉じる事になり、それは今は叶わなかったのだった。
誕生日のお話は、公式が最高すぎるので考えるのを諦め、カンヤとジュンさんが喋ってる所が見たいなーと思い書いてみました。
しかし、ジュンさんのキャラクターを把握しているとは言い難く、今後もっと喋ってくれて、イメージ全然違ったりしたらすいません💦
ハク、お誕生日おめでとうございます!
末永くお幸せに!