ただよう、あなたと
ネタバレは特にありません。
蒸し暑い風と照り付ける太陽の元、ハクの相棒であるクロに乗って、水族館まで避暑に訪れた。
何でも新しく出来た水族館らしく、幻想的な空間が話題らしい。
この前番組で取材させてもらって以来、私もこの水族館が好きになった。
中に入れば、冷気が身体の火照りを落ち着かせ、まるで違う世界にいるような気分になる。
「クラゲがたくさんいるな。ここがこの水族館の顔、なんだな」
「そうなの、綺麗だよね」
「ああ」
お互いに微笑みながら、浮遊するクラゲを見つめる。
何だか宇宙を漂って、此処に流れ着いたUMAみたい。でも一方で、クラゲ達から見たら、私たちの方がUMAなんだろうか。
「ふっ、」
「な、なに」
ハクの吹き出す笑いに、クラゲに夢中だった私は、ハクがいる左隣を見る。
「いや、すまない。何か楽しいことを考えていたようだったからな」
し、しまった。いつもの癖で、怪奇的な考えを巡らせてしまったらしい。
今日はハクの誕生日で、お気に入りの水族館で楽しい時間を……と、ずっと考えてきたのに。
「わ、わたし……」
「お前が落ち込む必要は無い。嬉しかったんだ」
「嬉しい?」
自分の情けなさに落胆していると、ハクが両手を優しく握ってくれた。
「お前の楽しそうな姿を見れて。一緒に過ごせる、今この瞬間が嬉しいんだ。こんなこと、前の俺には考えられなかった」
「ハク……」
暗い照明の中でもハクの優しい微笑みが、はっきり見えてる。
繋いだ手から暖かい気持ちが、私にも伝わって、身体まで暖かい。
「だからこれからも、その……ずっと一緒にいてほしい」
「うん! もちろんだよ、ハク」
彼の願いは、私も望む願いだった。嬉しくて笑顔になり、全力で肯定する。
これからもずっとずっと、ハクの大切な日をお祝いしたい。そう思うのは自然だった。
再び、お互いに微笑み合い、包まれた両手は、私の左手と、ハクの右手に。
彼のための今日は、まだまだこれから。
きっと、私達も彼らと同じ、クラゲになった感覚で浮遊しているに違いない。
クラゲと、大切な人と過ごすと過ごす特別な日。フワフワする気持ちを重ねました。