written by たけのこ樣

※この小説はカウントダウン5日目の小説『あと5日。』の続きとなる小説です。 ※デート『母校』と『願い』のネタバレを含んでおります。メインストーリーのネタバレはありません。 ※小説はセクションごとに視点が変わります。ハク→私→ハク→ハク→私→私→ハク、となっております。

☆☆☆☆☆

 7月28日、23時50分。ハクは自宅を出て、空へ飛び出す。汗ばむ時期でも、風が吹けばまだ涼しかった。

 目的地に近づくと、部屋の電気がパッと点いた。それを見てハクは微笑んだ。

☆☆☆☆☆

 7月28日、23時55分。私のスマホのアラームが鳴り響いた。もうすぐ、私の計画が始まる。

 飛び起きてまず始めたのは、ハクにお祝いのメッセージを送ること。去年は直接、ハクの家に向かったが、今年はきちんと事前にメッセージを送ることにした。もちろん、1ヶ月前にこの日は予定を空けて欲しいというお願いもした。

 送信ボタンを押すと、『コンコン』と窓を叩く音がした。これは予想外。窓からと言うことは、まさかハクが……? 窓を開けると予想どおりハクが浮いていた。

「ハク!? まだ0時だよ!?」

「メッセージありがとう。おまえに会いたくていても立ってもいられなかったから、来た」

「私がハクの家に行くつもりだったのに!」

「去年は来てくれたよな? 今度は俺の番だ」

 私の言葉など耳にかけずに彼は部屋に入っていく。ハクの爽やかな香りが、鼻腔を蕩かした。ハクがここにいる。それだけで、私は幸せ。

☆☆☆☆☆

「ハク! 今日はやりたいこととか、どこか行きたいところとかある?」

「お前と家で穏やかな1日を過ごせれたらそれでいい」

「それじゃあ去年と一緒だよ! 何かない?」

「そうだな……」

 ハクはしばらく考える素振りを見せてからこう言った。

「今日はまたご飯を作ってくれるのか?」

「もちろん! ちゃんと材料は用意をしてるし、ケーキも作ってあるよ!」

「じゃあ今度はおまえと一緒に作りたい」

「でもハクは主役……」

「俺のお願いを聞いてくれるんじゃないのか?」

「うっ……」

「いいよ……朝になったら作ろう」

 彼女は優しい。ハクの願いを沢山叶えてくれる。彼女が愛おしい、そんな想いがハクの心の中に広がった。

☆☆☆☆☆

 穏やかな朝を迎え、ハクと彼女はキッチンに立っていた。

「何を作るんだ? おまえに従うよ。」

「えっと、酢豚にチンジャオロース、あんかけ豆腐、それにトマト卵炒め!!」

「それは……」

「ハクの言ったことは全部覚えているよ!」

「ありがとう。やっぱりおまえしか俺の願いは叶えられないな」

「そんな……大げさだよ」

 ハクの直球に、彼女の顔が赤くなる。ああ、可愛い。

 それからは彼女と一緒に料理を作って、一緒に食卓に並べて。他愛ない話で盛り上がって。

「いただきます」「いただきます」

互いに言葉を発し、料理に手をつける。

「どうかな…?」

「うまい」

「ふふっハクと一緒に作ったからだね」

 こんな時がずっと続けばいい。一緒にご飯を食べて。穏やかな1日をずっとずっと過ごしていたい。

☆☆☆☆☆

 今回の大目玉……お誕生日ケーキをハクの目の前に置いた。もちろんバースデーソングも添えて。

「今年こそ、ろうそくを立てて、お願いするんだよ!」

「必要ない。言っただろ。俺の願いはおまえにしか叶えられない」

「だめです!」

 ハクの言うことを却下して、ろうそくをケーキに立て火をつける。部屋の明かりを消して…そこでようやく気がついた。もう昼に近いため、明かりを消しても暗くならならなかった。

「あっ……ちょっと待って、すぐにカーテンを……」

「いや、このままでいい」

 私が立ち上がる前にハクはふっとろうそくを消した。

「……ちゃんとお願いした?」

「した」

「でも消すの早かったよ?」

「おまえとの時間を1分1秒逃さないように、そう願った」

 私が叶えられることならなんだって叶えたい。あなたが幸せになれるのなら。

☆☆☆☆☆

 いよいよハクにプレゼントを渡す。これが私の最後のミッション。

「ハク! 改めて誕生日おめでとう! よかったらこれを」

「ありがとう。開けていいか?」

「うん」

「CD?」

「色々と考えたの、本当はちゃんとしたものを買いたかったけど、でもハクが好きって言ってくれたものをプレゼントしたくて」

「だからあの時急いで帰ったのか?」

「うん……あの時は、食事に誘ってくれたのにごめんね」

 そう5日前にハクが来た時は、ちょうどこのCDの仕上げをする日だったのだ。

「聴いてもいいか?」

「うん、ぜひ聴いてください」

 ハクはCDをプレーヤーにセットをした。プレイヤーからは私が弾いたピアノ曲が流れる。ハクが好きと言ってくれたこの曲を、私はハクに贈りたかった。

一緒に過ごした時間は一瞬で過ぎ去るけれど。思い出だけは形に残したい。想いを込めてここに。

「ハク、誕生日おめでとう」

おめでとう。来年もまたあなたの傍に。

☆☆☆☆☆

 日付が変わった深夜。ハクは一人、イヤホンをつけて曲を聴いていた。 あの時、学生時代のハクが救われた曲。ハクの心に刻まれたその曲が今ここに流れている。 すやすやと寝息を立てて寝ている彼女にそっと呟いた。

「ありがとう」

  この曲を弾いてくれて。傍にいてくれて。ありがとう。

ハクさん、お誕生日おめでとうございます!! ハクさんのお誕生日を祝う素敵な企画に参加でき嬉しいです!ありがとうございます! ハクさんに幸せがあることを、ずっと主人公ちゃんと一緒にいられることを、願ってます。